2013/07/20

石垣島紀行

1.南ぬ島へ

平久保崎灯台 石垣島のほぼ最北端に建つ

2013年6月23日:

この日を選んだのは、特別な理由があったわけではなかった。でも特別な日だった、この土地に生きとし生ける人たちにとって永遠に忘れられることのない日である「沖縄県慰霊の日」を奇しくも僕らは選んでしまった。


この日のことを知ったのは、旅行手配から大分経った後だった。僕と女房は「この日は海に近づくことなく海を想い海に眠る人達の安息を妨げぬよう配慮しよう」と語り合った。

琉球の信仰に「ニライカナイ」という概念がある。これは理想郷信仰の一つと考えられ、その場所は東方の海の彼方、或いは海の底ともされる。神はニライカナイに住まい、生者はニライカナイよりやって来て、死後はニライカナイへ帰るという。
このような信仰を持つ地域において、慰霊は即ち海への祈りを意味する。この日は特に海を穢すことを慎もう、そして海を照らす月に祈ろう…これが僕らの約束だった。

石垣島空港は、今年4月に新空港が完成し、その名は「南ぬ島(ぱいぬしま)空港」となった。空港に降り立った僕らを待ち受けていたのは猛烈な暑さと湿度だった。若かりし頃、世界中を旅した僕らは「成田が一番蒸し暑い、世界中どこから帰ってきても、成田に降り立った時が一番不愉快になる(笑)」こう思っていたが、この日の南ぬ島は、おそらく僕らが経験した中で、最も暑く最も厳しい纏わり付くような暑さだった。
空港から宿まで…正直、バスの運転手の運転が荒っぽかった以外はよく覚えていない。薄暗いビジネスホテルようの宿にチェックインして、食事処を探して彷徨き回る僕らに無慈悲な残照が畳み掛ける。

結局、宿から一番近い、寂れた感じの居酒屋に転がり込んだ。
水車小屋 と看板のあるこの居酒屋は、寂れた外見とは違って、なかなかに活気のある店だった。おそらくは、一人二人で賄っているのだろう…料理の出てくるのも早いとはいえないが、一品一品丁寧に土地の素材で造られている様子が感じられた。

初めの一杯はニライカナイに
次の一杯は彼の地に眠る人々に
最後の一杯は我々の海の安全に

ゆっくりと時間が溶けるように流れ、宿に帰った僕らは泥のような眠りについた…
セーイカ(ソデイカ)の刺身(390円)

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